研究概要 |
近年、生体機能の発現のためには、脂質膜のもつヘテロ構造が本質的に重要であると考えられている。生体膜のマイクロドメイン(ラフト)に関するこれまでの研究は、主に生物学的な視点に立脚していた。本研究ではマイクロドメインの形成を生体膜上の相分離現象として捉え直し、ソフトマター物理的な観点から生体膜のヘテロ構造を理解および解明することを行った。我々はこれまでに、飽和脂質と不飽和脂質の二成分系、脂質とコレステロールの二成分系(S.Komura, H.Shirotori, P.D.Olmsted, and D.Andelman, "Lateral Phase Separation in Mixtures of Lipids and Cholesterol Systems", Europhys.Lett. 67, 321-327(2004))、また脂質三成分系(S.Komura, H.Shirotori, and P.D.Olmsted, "Phase Behavior of Three-Component Lipid Mixtures" to be published in J.Phys.: Condens.Matter 17, S2951-S2956(2005))の現象論的なモデルを構築し、それらの相挙動の定量的な予測や計算を行った。また、固体基盤上に吸着したベシクル上で、ストライプ相やヘキサゴナル相が観察された実験に対応する理論的なモデルを提案し、このような形態変化が表面張力の増加によってもたらされることを指摘した。さらに、脂質の二成分系において、液体相と固体相の共存について考察し、リップル相を含むモデルに基づいて相図を計算した。この場合には、ベクトル的な秩序変数を導入する必要がある。また関連する問題として、水と脂質の二成分系における非束縛転移の新たな機構を考察した。通常、リオトロピック液晶では、濃度と温度を変化させると様々な状態が実現するが、ここでは界面活性剤の配向秩序変数を新たな自由度として導入し、濃度変数と配向秩序変数が結合したモデルを考察した。その結果として、これまで連続的な相転移と考えられていた非束縛転移が不連続な一次転移となることが予想される。
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