研究概要 |
本研究では水以外の液体と高分子の混合系の超広帯域誘電分光(BBS)測定を30GHz〜1μHzの周波数域で行い,液体状態からガラス状態までの誘電緩和を観測し,高分子-低分子量分子混合系の緩和機構の一般論を確立する。 ポリビニルピロリドン(PVP)とメタノールからノナノールまでの様々な炭素数の1価アルコールの混合系の25℃における広帯域誘電分光測定を行った。その結果,溶液中のアルコールの緩和と,PVP分子鎖のミクロブラウン運動による緩和がそれぞれ独立に観測された。アルコールの緩和は2GHz〜100MHzの周波数域に観測され,PVPの緩和は10MHz〜10kHzの周波数域で観測された。 PVP濃度の増加と共にアルコール構造によりアルコールの緩和時間が増加するものと減少するものが存在することがわかった。解析の結果,PVP濃度の増加により水素結合アクセプター密度,ρ_Aが増加するものは緩和時間が小さくなり,ρ_Aが減少するものは緩和時間大きくなる。つまり,1価アルコールの緩和時間がρ_Aによって一義的に決定されることがわかった。 また,PVPの緩和時間は,いずれのアルコール溶液でもPVP濃度の増加とともに増加することがわかった。この結果は,PVPの緩和時間の濃度依存性がPVP高分子鎖同士の排除体積効果と絡み合いによって決まることを意味する。また,アルコールの構造によってPVPの緩和時間が異なるが,PVP孤立鎖の緩和時間はアルコールの緩和時間によって決定されることがわかった。 現在PVP-プロパノール混合系で,1μHz〜30GHzの周波数域で25℃からガラス転移温度以下(100K)の温度域の広帯域誘電分光を測定中である。これらの結果により,アルコールとPVPのそれぞれの緩和メカニズムに起因する温度依存性の違いを明らかにする。
|