研究概要 |
東北日本弧の火山フロント近傍には,地殻深部に低周波地震が発生する領域があることが知られている.地震波トモグラフィの結果から,低周波地震の発生域は低速度域の縁辺部にあることも知られていて,上部マントル,下部地殻を通って,地殻上部あるいは地表部へと運ばれる地殻流体(メルトあるいは水)の通路に沿って低周波地震が発生しているものと推定されている.地殻深部低周波地震の発生原因となつている流体が,メルトなのか,地殻水なのかを知るためには,その場所の比抵抗を知ることが重要な情報になる.そこで,本研究では鳴子火山付近,栗駒山付近,焼石岳付近と3つの低周波地震発生域の比抵抗分布を調べた.3ヵ年の研究期間(平成15年から平成17年)中に,上記3地域を横断する測線での広帯域MT法探査を実施した.各年度1測線で実施された観測データを処理解析して,2次元インバージョンによって,各測線ごとの比抵抗断面を得ることができた.それらを比較検討して次めような結果が得られた. 1.各測線で,火山フロント西側の下部地殻あるいは地殻中部に,顕著な低比抵抗域がある. 2.低周波地震の発生域は,1の低比抵抗域の縁のところにあり,低比抵抗から高比抵抗に変わる領域である. 3.低周波地震発生域と関係する低比抵抗域の比抵抗値は非常に低く,流体としてメルトよりは地殻水が卓越しているものと考えられる.また,おおよそ見積もられた含水率は,10%に達する可能性もある. 4.ほとんどの地殻浅部の微小地震は,高比抵抗域に発生している. 5.地殻浅部の地震のうち,1962年宮城県北部や,1970年秋田県南東部の地震の震源域は,地殻中部の低比抵抗域に接するように分布し,断層面への地殻水の供給と大地震発生との関連を示唆している. 6.地殻中深部の顕著な低比抵抗域は,地殻歪速度が大きい地域と一致する傾向も見出された.
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