熱と流体の効果を考慮にいれた、断層の動的破壊についての理論的研究例は、いくつかある。しかし、そのいずれにおいても支配方程式の導出に問題があるか、または、任意性のある仮定をしているなど、大きな問題をかかえている。 我々は、本研究においてまず、厳密な支配方程式系を導いた。従来のほとんどすべての研究では、断層の動的滑りについては、弾性体を仮定した解をそのまま、用いていたが、我々は、熱多孔性媒質についての運動方程式を解くことにより、その表現を得た。 1次元および2次元のモデルを用いて、支配方程式系を数値的に解いた。1次元モデルは、断層先端の成長を考慮に入れないという意味で、破壊の基本的機構を理解するのに役立つ。このモデルを用いた計算により、断層の動的滑りの立ち上がりは、弾性体のモデルから期待されるものよりも、はるかにゆっくりとしたものであることがわかった。したがって、流体が関与するか否かで、その立ち上がりの程度は大きく異なることになる。 2次元モデルにおいては、断層先端の成長と停止の効果を考慮に入れることができる。もっとも簡単なモデルとして、破壊が媒質中の一点から始まり平面上を左右に一定速度で広がり、破壊先端がある距離まで達したら、その成長が停止する、というものを仮定する。弾性体中の被壊については、このモデルについての解はよく知られており、滑りの方向の逆転が起こらない限り、破壊の停止端で発生した回折波の到着とともに滑りは停止する。しかし、我々のモデルでは、温度と流体圧が断層面上で時間変化するため、応力降下量も時間変化することになる。場合により応力降下量の効果が、回折波の効果に打ち勝ち、弾性体のモデルから期待されるよりもずっと長い時間、断層滑りが続くことがありうる。これは、断層滑り継続時間の多様性を説明しうる。
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