研究概要 |
近年我々によって発見された常時地球自由振動の励起源として小林の提案した大気励起説と綿田や谷本らが提唱している海洋励起説がある.その問題に迫るため,本研究ではその励起メカニズムを詳細に検討するべく大気擾乱の観測を行った.平成15年度に開発を行った超音波風速計測システムを東京大学千葉演習林に設置させてもらい引き続き観測を行った.動圧を直接検知している風速計のスペクトルは周期100秒を超えたところで風速スペクトルに構造の変化が見られた.mHz帯では比較的なだらかなスペクトルになっており,高周波数側は等方乱流理論に似たスペクトル構造になっていた.このmHz帯で緩やかで10mHz以上で急峻に落ちる風速スペクトルの構造は最近の大気励起モデルが抱えていた10mHz以上の過剰振幅予測という問題を解決する糸口と考えられる.そこで,新たに考案したノーマルモード計算法にて大気擾乱による励起量を見積もった.この計算法は非弾性や大気上端からの波動の放射を含めた計算を容易に扱うことができる.こうした場合,固有周波数は複素数になるので複素平面での根を探す問題となるが,新たに考案した計算法は複素根を効率よく求められ,また周期1秒の固有振動を地球中心から大気上層まで自己重力を含めて計算できるという安定性においても優れものである.この計算法はGeophysical Journal Internationalに投稿し審査中である.この新しいモード計算法を用いて観測した大気スペクトルをもとに加速度スペクトルを計算した結果,(1)大気モードとブランチが重なる3.7mHz,4.4mHz付近で常時自由振動の振幅が大きくなることが説明できた.また,ブランチのモードの前後のスペクトルの増加,減少の具合を良く再現できた.(2)10mHz以上では過去の研究(Fukao et al. 2001)では振幅を過剰に見積もっていたが,本研究で得られた大気スペクトルでは地動の加速度スペクトルを10mHz-100mHzでも良く再現できるようになった.(3)更に同じ大気擾乱で脈動帯域も調べたところ,大気擾乱で励起された基本モードと1次に高調モードの重ね合わせで脈動のスペクトルの特徴も再現できることが分かった.特に,これまでの常時自由振動理論,脈動理論地面や解底面にランダムな圧力擾乱を置いて計算していたが,スペクトルの特徴を微細に再現するには圧力擾乱の3次元的な分布が重要であることを示したことは意義が深い.これらの結果は地球惑星科学合同大会および米国のAmerican Geophysical UnionのFall meetingで発表した.
|