研究概要 |
マントル遷移層におけるkmスケールの規模の化学的不均質構造、つまりかつての海洋地殻成分の地震学的検出と、海洋プレートの上部マントル下部マントル境界近傍での詳細な内部構造の推定を行なった。日本と合州国西海岸の高密度地震計アレイ・データに,標準的なスラント・スタック法,及び代表者により開発された深発地震群を震源アレイとして扱う重合センブランス法と分散センブランス法を適用し,不均質構造体のマッピングを組織的に行なった。その作業と並行して,重合された地震波形の2.5次元差分法及びKirchhoff法によるモデリングを実施し,アレイ波形のより詳細な解釈を行なった。解析対象とした地域は,北西太平洋(伊豆・ボニン,マリアナ,千島),トンガ・フィジー,インドネシア,南米である. その結果、マリアナの北緯19度近傍で、しずみこむ太平洋プレートが下部マントルに突入する深さ690kmから900km近傍の最上部の下部マントルに複数の顕著な地震波速度不均質を発見した。これらは高速度異常のスラブが下部マントルに入り変形している中に存在し、1988年にRingwoodとIrifuneによって提唱された様にメガリスの中に海洋地殻成分が取り込まれていく様子を表していると考えられる。さらに同地域において、沈み込む海洋プレートの内部の深さ600km付近に顕著な低速度の異常を発見した。これは、マリアナスラブの最も冷たい部分に残された、カンラン石の準安定相であると考えられる。 同時に、マントル対流や地球化学や岩石学の研究者との情報交換を行ない、海洋地殻が上部マントル下部マントル境界周辺で簡単にスラブから剥がれるちるか、また海洋地殻が同深さ付近ではどの様な弾性波速度を持つかについて考察した。その結果、海洋地殻は必ずしもスラブから容易に離脱するとは限らず、観測されたようにメガリスに取り込まれる可能性が大きいこと、また最上部マントルでは、大きな弾性波速度(特にS波速度)の異常を持ち得ることが分かった。
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