日本列島に展開されたGPS網(GEONET)の測位結果に見られる季節変動の要因を定量的に評価した。その結果、日本列島陸域にかかる荷重の季節変動が変動のおもな原因であることが判明した。なかでも積雪荷重は他の荷重より数倍大きく、次に大気荷重、その後は陸水(土壌水分、ダムの湛水)や非潮汐性の海洋荷重などが続く。これらの荷重量とその季節変動を気象データやモデルを用いて推定し、それらがもたらす季節的な地殻変動成分を計算して、実際のGPSデータに見られる季節変動成分と比較した。その結果これらの真の季節的地殻変動に加えて、スケール変動(網全体の伸び縮み)や大気遅延勾配の存在による見かけ上の変動の成分も無視できないことを見出した。それらを経験的に求めて、荷重による実際の季節的地殻変動に加味した季節的地殻変動の予測値はGPSデータと良く一致した。従来テクトニックまたはゆっくり地震などの信号を浮かび上がらせるために、年周と半年周の成分を最小自乗推定して季節成分を除去していた。気象データどモデルからアプリオリに求めた季節変動成分を補正する本研究で開発した手法は、従来の最小二乗法による経験的な除去とほぼ同じ程度までデータのばらつきを減少させることがわかった。これらの研究結果はAGUから発行される本"State of the Planet"(「この惑星のいま」)の中に掲載されることになった。 また荷重の季節変動が地震の発生に及ぼす影響を、クーロン破壊応力を用いて定量的に評価し、積雪地域の直下で発生する内陸地震についてはある程度影響を与えることを見出した。過去の被害地震の記録を調べ、M7以上の積雪地域の内陸地震が春夏に多く発生する傾向を見出した。これは雪どけによる積雪荷重の除去が地震の発生を促していることのあらわれと理解できる。この研究結果は欧州の専門誌Earth Planetary Science Lettersに掲載され、論文がNature誌およびNew Scientist誌上でも紹介された。
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