研究概要 |
Sasaki et al.(2007)において,オホーツクの海氷に長期的な変動をもたらすには,これまでほとんど注目されてこなかった秋の大気の状態が重要であることを明らかにした.オホーツク海の海氷は長期的に現象傾向が続いていたが,1990年代後半および2000年代前半には一転して海氷が多い状態が続いた.こういった海氷の長期変動は,1998/99年の変化と関係している可能性がある.海氷の変動と大気変動とは従来大気が1ヶ月先行する変動が重要であると考えられてきた.しかしこの関係では,海氷の長期変動を説明することができない.そこで我々は様々なラグを用いた,特異値分解解析を行った.特異値分解解析は,二つの変動場の共変動を取り出す解析手法であり,今回は海氷密接度と大気場(100hPaの東西風速,南北風速,および850hPaの等圧面高度を結合)との特異値分解解析を行った.その結果,10-11月という秋の大気状態がその後の海氷密接度に強い影響を与えることが示された.秋の大気変動は,まだ海氷が張る前であるために海洋に効果的に水温偏差を与え,これが冬季に保持されて冬季に海氷が成長しやすいまたはしづらい状態を作るものと考えられる. また海洋観測データをグリッド化して,日本近傍の黒潮続流の流軸を推定した.黒潮続流の南北移動は,多くの注目を集めてきた.衛星海面高度計を用いる黒潮続流の南北移動の同定は,1992年以降に限られることから,より長期の変動を明らかにするには,船舶観測による水温データーを用いる必要がある.そこで,0.5°の格子状上,75kmのe-foldingスケールを持つ水温データセットを作成し,黒潮続流の流軸を推定した.黒潮続流の南北偏移は十年スケール変動に支配されていることが,初めて明らかになった.この変動はまた,中央北太平洋の風応力変動と密接に関係していることが示された.
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