研究概要 |
渦と平均流が共存する場では、渦によって平均流の運動量が水平・鉛直方向に"拡散"していく。広範な陸棚を持ち、そして陸棚縁で前線波動が大きく発達する東シナ海の黒潮流域では、この波動(渦)によって黒潮本流から分配された運動量が陸棚上や黒潮下層に平均流を励起する力学過程が考えられる。実際、現実地形を考慮した2層モデルで東シナ海の前線波動を再現してやると、陸棚上には、黒潮と反対を向く"逆流"や、100m等深線に沿った黒潮分岐流が形成される。このパターンは、例えばKato et al.,(2000,JGR)がADCPで精査した同海域の循環パターンとよく似ている。本研究では、まず数値モデリングを通して、黒潮前線渦による陸棚平均流の形成過程を提案した。 前線波動は沖からの湧昇過程、あるいは沖向きの海水輸送過程を伴う。本研究では、東シナ海における黒潮前線波動を精緻な数値モデリングによって再現することで、先述した運動量だけではなく、これらの過程に伴う海水輸送量も評価した。我々は、揚子江からの河川プリュームの挙動を再現する目的で、POMを用いた数値モデリングを行い、黄海・東シナ海の海洋循環を精度良く再現することに既に成功している(Chang and Isobe,2003,JGR)。本研究では、このモデルの一部を切り出したネスティングモデル(one-way)を用いた。観測データと比較しながらモデルの前線波動の再現性を確認し、現実的な前線波動の発達に伴って、黒潮前線横断方向の海水輸送が行われる様子を再現した。 さらに本研究では、上記の研究から発展して、黒潮前線渦のみならず「渦の成長」に対する新しい力学的解釈を提案した。この力学過程を河川水が形成するバルジの成長過程に適応することで、黒潮前線を横断して東シナ海から太平洋に運び出される揚子江希釈水のような河川プリュームの挙動を明らかにした。
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