研究概要 |
東シナ海からの低塩分水が、どのような時空間変動をともなって日本海へ流入するのかを把握するために、対馬海峡に面した下関市の蓋井島,対馬市美津島,福江市玉之浦,および韓国Cheju島の4地点に測器を係留し、表層水温・塩分のモニタリング観測を行った。水温については各点とも8月中旬に最高値を示したが、塩分についてはCheju島では7月中旬,対馬海峡では8月中旬に最低値が記録され、約1ヶ月の位相差が認められた。Cheju島では、大潮期に高塩分化する傾向が認められ、大潮・小潮変動にともなう鉛直混合の影響が示唆された。また、対馬海峡域での結果から、低塩分水はパッチ状の水塊の形で日本海に流入していると考えられた。さらに、対馬海峡における2004年夏季の結果と比較すると、2005年夏季には低塩分化の時期が20日ほど早く、最低値も1〜2psuほど低いという経年的な差違が認められた。 対馬海峡で得られた既往観測資料に基づいて、海峡を通過する海水の塩分の経年変動を調べた。昨年度に行った予備的な解析を拡張し、解析期間を10年ほど延長した1971〜2000年の30年間の状況について考察した。経験的直交関数解析の結果、最も卓越した変動(寄与率28.2%)として、海峡の両水道で同時に塩分が増減するモードが抽出された。この変動には7.4,2.1,1.4年の卓越周期がみられるが、これは長江流量変動の卓越周期に対応するものである。また、このモードの時係数は長江の流量変動との間で有意な負の相関を示すことから、この変動は長江の流量変動に関連するものと考えられる。以上のことから、長江流量が多い年の夏〜秋には、対馬海峡のほぼ全域で塩分が低下する傾向があることが統計的に示された。 日本海の熱塩循環に影響する東シナ海からの淡水フラックスを見積もるために、対馬海峡を横断する断面内の気候学的な水温・塩分の分布から、海峡を通過する傾圧地衡流量の季節変動を調べた。傾圧流量は、両水道とも8月に最大値を示すが、両水道の流量を足しても0.6×10^6m^3/sほどであり、報告されている同時期の通過流量(2.7×10^6m^3/s)の20%程度であることがわかった。そこで、Takikawa and Yoon(2005)に報告されている福岡-厳原-釜山の水位差から見積もった流量に合うように地衡流速を調整し、それに基づいて淡水フラックスを計算した。その結果、海峡を通過する淡水の年平均流量は約3.6×10^4m^3/s(西水道:2.7×10^4m^3/s,東水道:0.9×10^4m^3/s)であり、そのほとんどが8〜10月に通過していることがわかった。
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