MHDスケールのケルビン・ヘルムホルツ(KH)渦を、電子慣性を含む二流体方程式系で数値実験した。計算は2次元であり、磁場に垂直な面で行った。大きな渦が非線形的に巻き上がった後、その内部で小渦が出現し、大渦を崩壊せしめることを発見した。この現象の誘因は、巻き上がった大渦内部での有限電子慣性による電流駆動型不安定性であることを把握した。次に、実際の磁気圏尾部低緯度境界層では、その高緯度側に強い磁場がつまったローブ領域があってKH不安定の成長を阻害する可能性があることを考慮し、KH不安定条件が有限な幅でしか満たされない状況でのKH渦の3次元MHD計算を行った。その結果、不安定領域の幅が波長程度あれば、渦が巻き上がることを把握した。これらの結果、(1)巻き上がったMHDスケールのKH渦が渦内部の電子スケールダイナミクスと結合することで崩壊すること、(2)現実的な状況を考えても尾部低緯度境界でKH渦が巻き上がっていることが十分に期待できること、を受けて、巻き上がった渦の兆候を捜索するべくESAの磁気圏プラズマ編隊観測衛星Cluster-IIのデータ解析を行った。編隊観測の特長を最大限に生かすこと、3次元数値実験結果を参照すること、を通じて、世界で初めて渦が実際に巻き上がっていることを実証した。このときの磁気圏尾部プラズマシートは太陽風が低緯度境界層から直接侵入していると思われる低温高密度状態にあったが、ここにある結果をすべてあわせれば、巻き上がった渦の崩壊を通じてこの直接侵入が起きている可能性を示唆することができる。
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