研究概要 |
日本の島弧の中部地域における火山フロントから背弧で活動する火山が,過去数10万年の間にどれだけイオウを供給したかを調べるために,箱根火山,富士火山,浅間火山,草津白根火山,妙高火山,そして白馬風吹岳火山について,軽石,スコリアまたは溶岩を採集して斑晶の包有物を記載岩石学的に調べた.斑晶のメルト包有物を記載して主成分とイオウ,塩素濃度をマイクロプローブ分析した.これらの火山噴出物は共通して,マフィックとフェルシックの2つのマグマが混合して噴出した,一般に,斜方輝石,単斜輝石,および斜長石斑晶はフェルシックマグマ起源であり,そのメルト包有物はフェルシックな組成をしてイオウ濃度が低い.これに対して,カンラン石はマフィックマグマ起源であり,捕獲されたメルト包有物の組成はマフィックな組成範囲に限られ,高濃度のイオウ含有量を有する.一般に,石基ガラスの組成はマフィックとフェルシックの2つの領域の間にある.全岩組成は両者の領域の間にある.カンラン石に捕獲されたマフィックメルトは酸化的な条件にあることがそのS-Ka波長シフトによって示された.そのために,イオウのSO42-/S2-が高く,高温の初生マフィックマグマは大量のイオウを溶解していた.浅間火山と妙高火山では,最もマフィックなメルト包有物3600ppmほどのイオウを含有している.箱根火山や富士火山のカンラン石では,すでに発泡しているマグマの一部を捕獲したので,メルト包有物のイオウ濃度はこれよりも低い(富士宝永噴火では<2000ppm,箱根中央火口丘期の噴火では<2000ppm).目下のこうした結果から,中部地域におけるフロントから背弧の間で活動する火山では,初生マフィックマグマは3000ppm以上のイオウ濃度を含有していたと推定される.この結果に加えて,次年度には東伊豆単成火山群,黒富士火山,北八ヶ岳,焼岳火山,鷲羽池火山,および立山火山のメルト包有物を調べて,この地域の火山のイオウ供給量を総括する.
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