研究概要 |
今年度は,2カ年計画の初年度に当たる.そこで,解析するために条件のよい花崗岩体に焦点を絞り,産状,鉱物組み合わせ,鉱物組織,鉱物化学組成および岩石化学組成を中心にデータの収集を行ってきた.また,年代測定に用いる岩石・鉱物試料から,Sm, Ndを抽出するラインを山口大学のクリーン実験室において組み上げた.そして,花崗岩と成因的に関連のある変成岩の同位体比の測定を行った. 研究対象とした試料は主に中部ベトナムに産するコンツム地塊の花崗岩体である.ベトナムコンツム地塊の試料は,グラニュライト帯の泥質変成岩中にレンズまたはストック状に産する.また,一部,ミグマタイト状の岩相を示す.このような産状から,花崗岩マグマの成因は泥質グラニュライトの部分溶融によって生じたと予想される.花崗岩中には2種類の異なる産状を示すザクロ石が含まれる.組織と化学組成の検討からこのザクロ石は泥室岩の部分溶融時に形成されたものと,花崗岩マグマから晶出したものであることがわかった.また,部分溶融時に形成されたザクロ石にはフッ素に富む黒雲母が包有されることから,花崗岩マグマの形成には黒雲母の分解溶融反応が関与した可能性が示された.泥質グラニュライトと花崗岩の同位体比組成を検討した結果,上記の説を支持することが明らかになった.さらに,これらのNdモデル年代を算出したところ,マントルから分離した起源物質の形成年代は中期原生代であることも明らかとなった.同様のモデル年代は中部ベトナムの各地から報告されている.このことは,ベトナムの基盤地質であるインドチャイナクラトンの形成年代はこれまで述べられてきたような太古代に形成されたものではなく,大部分は原生代地殻であることを意味する.また,これまで報告されている年代値からみて,コンツム地塊のグラニュライト帯は下部地殻から断熱的に急上昇した熱履歴をもち,その冷却史は地殻上昇後急冷したものと推察される.このような冷却史は,地殻の上昇速度の極めて早い大陸-大陸の衝突による地質事変によって可能となる.
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