昨年に続き三波川帯の岩盤クリープによる傾動岩盤を解明すべく、本年度は清水構造帯を調査したが、岩盤クリープによる傾動岩盤の分布は限られており、それに起因した崩壊の規模も小さいことがわかった。一方、台風の襲来によって、黒瀬川帯の蛇紋岩と緑色岩に発達する"微小断層面群"タイプの典型的な破砕帯で斜面変動が発生していることがわかった。 黒瀬川帯の蛇紋岩には無数の微小断層面群が発達し、微小断層面群に囲まれた岩片は硬質で破断面には鏡肌が発達している。岩片群は弱い定向配列を示し、東西伸張で高角度である。蛇紋岩のこういった産状が破砕帯の典型的な構造であると小出は紹介している。仙波ほか(2004)は蛇紋岩の発生初期の斜面変動を採石場で記載した。採石場の切土斜面からその上方の尾根にかけて、尾根の開口クラック群の形成と尾根の陥没で特徴づけられる展張帯の変形と、小段に発達する引張クラック群と圧縮ブリッジ、斜面に発達する谷向き小崖群で特徴づけられる圧縮域の変形とが起こった。このまま変形が進行しても、特定の連続した一枚のすべり面に沿った徐動性のすべりに移行するとは考えられず、将来突発的な地すべり性崩壊が発生すると予想される。 黒瀬川帯では緑色岩にも"微小断層面群"タイプの破砕帯が広く発達していることが明らかになった。そして、徳島県那賀町では台風10号の豪雨時に緑色岩の破砕帯で典型的な破砕帯地すべりが発生した(横山ほか、2004;掛川ほか、2004;中屋ほか、2004)。崩壊した緑色岩はその場でほぼバラバラになり、高速土石流となって斜面を流れ下って対岸に乗り上げ、一時河川を閉塞した。この斜面変動は典型的な地すべり性崩壊である。
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