研究概要 |
中部地方に分布する第四紀火砕流の分布域で詳細な地質調査を行い,活断層を追跡した。次いで,活断層を横断するルートで古地磁気試料を採取し,残留磁化を測定した。熱処理と交流磁場消磁を併用して磁化の安定性を検討し,火砕流が噴出した当時の地球磁場方位を決定した。磁鉄鉱と赤鉄鉱が担う安定な磁化ベクトルの空間分布は,横ずれの卓越する活断層の末端で顕著な地盤の変形を伴う垂直軸回りの回転運動が生じていることを示唆する。従来の変動地形学に基づく活断層評価では今回明らかになった地殻変動は明瞭には検出されておらず,古地磁気学的手法の有効性が示された。また,調査を行った岐阜県高山市近郊のような市街地では,人工的改変によって,地形変位に基づく活断層評価が困難なことが多い。それに対して,点在する火砕流堆積物を活用する古地磁気学的手法は,同様の条件でも定量的な歪評価が可能である。検討対象にした火砕流堆積物をもたらした火山噴火は,同時に広域テフラを噴出している。今回は長野県大町で対比されるテフラを採取し,残留磁化ベクトルを決定した。その方位から,岐阜県と同様の地盤変形を被っていることが明らかになったので,中部地方を横断する大規模な変形帯が想定される。その変形帯は日本列島を二分する境界である糸魚川-静岡構造線をまたいでおり,日本の第四紀地殻変動の実態について,再考が必要なことを示唆している。さらに,採取した全ての試料について初期磁化率異方性を測定し,最大磁化率方位の偏角・伏角(インブリケーション)を分析することによって,火山噴出物の供給方向を決定した。その結果,大規模火砕流は日本アルプスの穂高岳周辺の火道から噴出したことが明らかになった。
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