研究概要 |
岩礁海岸は,硬質の岩盤と波当りの強さで特徴づけられる高エネルギー環境の場である.そのため,地質学的に保存されることはまれで,そこに棲む岩礁性群集も化石記録に乏しいものとされてきた.本年度は,北海道の第四系から産出する岩礁性貝類化石群集の産状や組成に着目し,古生態学的・タホノミー的検討を行った.また,現生貝類遺骸群集のタホノミー属性を解析し,タホノミー相の認定を試みた. 西南北海道に分布する瀬棚層は,保存良好の貝類化石を多産し,更新世の氷河性海水準変動に起因する地層である.そこで,最下部の海進相から産出する岩礁性貝類群集に着目して,検討を行った結果(鈴木ほか,2003),以下のことが明らかにされた.(1)西南北海道黒松内地域の添別セクションの瀬棚層に覆われる不整合面には,波食溝や溶食穴?がみられ,過去の岩礁海岸(=波食棚)であることが示された.(2)岩礁性貝類化石を多量に含む最下部ユニット1の古水深は,下部はNt〜N1帯,上部はN1〜N2帯と推定された.また,二枚貝類の生活型に着目すると,穿孔性種・固着性種・足糸付着性種いずれも下部から上部に向って増加し,上部では足糸付着性種が優勢となった.(3)ユニット1の検討から,低海水準期における岩礁海岸の波食棚の形成を経て,海進期初期の中礫〜大礫主体の砂礫底へと変化し,海進期後期の礫が散在する細砂底の浅海域へ移行するという古環境変遷が明らかにされた. 一方,岩礁海岸における現生遺骸群集については,すでにその概要が報告済みの西南北海道木古内海岸(Suzuki & Ito,2002)を対象とした.タホノミー解析では,二枚貝の貝殻のタホノミー特性(離弁率・磨耗率・破片化率・生物侵食頻度・被覆頻度)に基づいて,採集地点のタホノミー相の認定を試み,それらと環境勾配との対応を考察した.
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