研究概要 |
平成15年度は,エイ類の摂食活動によって形成されたことが既に判明している生痕化石 Piscichnus waitemataに焦点を絞って研究を行った.とりわけP.waitemataが多産する中期中新世の浅海層のうち,沖縄県与那国島の八重山層群と島根県浜田市近郊の唐鐘層を主たる検討対象とし,現地において形態の記録と計測および産状の観察を行った.八重山層群では,産出する生痕化石のサイズ計測を行い,堆積環境の違いによって形態に違いが生じることが判明した.これは,地層に保存される際の保存ポテンシャルの違いが堆積環境の違いによって生じ,それが形態の違いに反映されたものと解釈した.唐鐘層においては,特定の層準に見られる皿状およびレンズ状の貝殻密集部がエイ類の摂食活動にともなう攪拌現象の産物であることを指摘した.そしてさらに,エイ類の摂食活動が堆積物表層部の攪拌現象に質・量ともに極めて大きな影響を及ぼしている可能性を指摘した.さらに,宮崎県都井岬に分布する古第三系下部漸新統日南層群の一部からP.waitemataを発見した.これまでこの生痕化石は,中生代白亜紀後期から出現が知られてきたものの,産出地層年代は新生代に限られていた.今回,古第三紀漸新世の浅海層からこの生痕化石を発見したことは,世界で初めてのことであるとともに,エイ類の摂食行動の進化過程および堆積物表層部の攪拌現象の地史的変化過程を知る上で極めて重要な意義を持つと判断される.
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