研究概要 |
研究計画に沿い北海道の下蔀更新統を中心にGlycymerisとTridontaの採集を行った。これらの標本を含め、今年度は特に、更新世前期のGlycymeris yessoensis(Sowerby)とG.nipponica(Yokoyama)の穿孔捕食頻度などを検討し、その地理的差異とその原因について考察した。その結果以下の4点が明らかとなった。(1)G.yessoensis、G.nipponicaは、主としてタマガイ科のCryptonatica, Euspiraの2属により穿孔捕食されたと思われる。まれにアクキガイ科によると思われる穿孔痕も見られる。(2)両種とも新潟県の沢根層の標本の穿孔捕食率は高く、北海道の鶉層、長流枝内層、瀬棚層の標本では低い。特定taxaの穿孔捕食率が低緯度へ高くなることは、Alexander and Dietl(2001)などにより指摘され、捕食圧の増加により説明されている。(3)殻縁穿孔(edge drilling)はG.yessoensisでは沢根層と青森県の浜田層で、G.nipponicaでは新潟県の沢根層、灰爪層で1~2個体認められる。これは穿孔捕食率の傾向と一致し、捕食圧の増加と調和的である(4)殻長20mm以上のG.yessoensis(沢根層以外)の後部には生息時に穿孔されたPolydora glycymerica Radashevskyの穿孔痕が見られる。 また、新潟県上越市の上部中新統能生谷層産Calyptogena pacifica Dallにタマガイ科によると思われる穿孔捕食痕(不完全痕)を発見した。これは、化学合成群集中の特徴種であるCalyptogenaへの穿孔捕食痕記録の2例目にあたる。
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