研究概要 |
本年度は主に中琉球の現生貝形虫群集を把握するため,10月に奄美大島の内湾で表層堆積物の採取を行った.さらに,九州における更新世の内湾貝形虫群集を把握するため,12月に島原半島北有馬層から微化石試料の採取を行った.これらに加え,日本各地の更新世の内湾貝形虫群集についても既存の試料を用いて群集解析を行った.奄美大島では笠利湾,伊須湾および住用湾において,主として船上からエクマンバージ式グラブ採泥器を用いて試料採取を行った.内訳は,笠利湾では水深2〜38.9mより35試料,伊須湾では水深7〜34mより12試料,住用湾ではマングローブ沼を含め,水深0〜30mより14試料,合計61試料で全て砂〜泥質堆積物である.現段階の結果として,奄美大島の貝形虫群集は,沖縄周辺〜南シナ海の群集と非常に類似性が高いことがわかった.また10m以浅においてLoxoconcha uranouchiensisが非常に多く,Neomonoceratina delicata, Spinileberis quadriaculeataなども多産し,それより深くなると多様性が増し,CopytusやParadoxostomaなどが多くなることがわかった.日本各地の第四系から産する貝形虫化石群集に関する今年度の成果を考慮すると,N.delicataは現在九州以北の日本列島では生存しないが,少なくとも酸素同位体ステージ11(あるいは15)から5の間には本州〜九州沿岸の閉鎖的内湾泥底に優占した.この種は沖縄周辺の内湾でも多産することから,トカラ海峡が現在この種の分布の障壁になっていると考えられる.島原半島更新統北有馬層においては詳細な地質調査を行い,相対的海水準変動による堆積相の側方・垂直変化を認識できた.また,貝化石が産出する層準を中心に,おおよそ50cm間隔で微化石試料を採取し,現在,抽出作業を行っている.
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