研究概要 |
本研究では高温高圧下で精度の高い物性測定を行うため,内径60mm外径500mm高さ200mmの大容量シリンダーを新たに設計した.これほど大型のシリンダーを用いる物性測定は世界に類を見ない.特徴として,外径20mm長さ20mmを超える大型試料について精密な物性測定が行えること,試料部の静水圧性を高め,温度勾配を最小限におさえられること,地球内部に対応した高温が安定に発生できることがあげられる.これらのことは精密物性測定に欠かせないが,ダイヤモンドアンビルやキュービックアンビルによる物性測定では決して解決することができなかったものである. 本研究のさらに重要な特徴は,透過波と反射波の両者を観察し,2つの波のトラベルタイムの差とスペクトル比をとることにより,試料のみに固有の速度とQ値を決定することにある.高温での物性測定では振動子と試料の間に音波媒体(バッファーロッド)を用いる必要がある.岩石試料の測定では,バッファーロッドとして音響インピーダンスの高いもの(タングステンや白金)を用いれば,透過波と反射波を十分な精度で測定できる.両者を測定することにより,速度やQ値のわからないバッファーロッドの効果は相殺される. 白金のバッファーロッドを用い,石英ガラスについて1GPaで室温から1185℃の高温まで透過波と反射波が明瞭に観察され,縦波速度が測定された.高温側で特に反射波に振幅の減衰が顕著であり,スペクトル比を取る手法により縦波のQ値を求めた.1GPaで昇温と共に急激なQ値の減少が認められ,1100℃でQ=72,1185℃でQ=37であった.1GPaでこのような高温でQ値を測定した例はなく,本結果は先駆的なものである.Q値は温度や流体量と共に急激に変化し,また高温における岩石・鉱物の塑性(流動性)とも関連し,弾性波速度と並んで非常に重要な基礎的物性量である.
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