研究概要 |
1.15年度に行った四国秩父帯の低変成鉱床である名野川鉱床の珪質岩の研究で,別子型鉱床に伴う珪質岩には遠洋性堆積物だけでなく熱水性堆積物ががあり,それが直接硫化物鉱床を覆うことによって鉱床の酸化消失が妨げられることが示唆された。今年度は,このような観点から珪質堆積物(チャート)の多い滋賀県土倉鉱床のチャートを顕微鏡的に分類し,そのREEの分析を行った。結果は,Euに正の異常を持つチャートと弱い負の異常を持つチャートが,またCeにも正と負の異常を持つチャートが見出され,今後この研究を継続して進めていくことに意義があることが判明した。 2.奈良県五条鉱床の硫化物鉱石の研磨片を丹念に顕微鏡,EPMAによって調べた。その結果,名野川鉱床や土倉鉱床の鉱石と同様に,鉱床形成時の鉱石組織を残していること,低温で沈積した微細な結晶,およびフランボイダル黄鉄鉱に混在して粗粒自形黄鉄鉱が認められる。この組織は変成度の低い鉱床の特徴であると考えられるので,この鉱石組織の成因を考える必要がある。五条鉱床の受けた変成度を明らかにするために鉱床周辺から岩石試料を採取し顕微鏡観察を行い,弱い変成度を確認した。 3.滋賀県土倉,高知県名野川および奈良県五条鉱床の鉱石ならびに珪質岩に関して微量成分の分析(REE,硫黄同位体比を含む)に供する試料の準備が略完了した。EPMAによる予察的分析結果では,これら四万十帯や秩父帯の鉱床も三波川帯の鉱床の鉱石と類似して,例えばCoに富みNiに乏しい特徴を持つ。今後,これらの鉱石の化学組成の特徴を明らかにし,三波川帯の別子,佐々連等の特徴と比較し,別子型鉱床全体の形成場を議論する。
|