研究概要 |
1.別子型鉱床は,黒鉱鉱床に比較して,Sn,Co,Se,Teに富んでいる。日高帯の下川鉱床は特にSn含有量が高く,それが別子型鉱床の高いSn平均値に大きく影響している。Seは別子型鉱床ではSeに富む独立相を作っていることはなく,硫化鉱物の硫黄を置換して存在している。黒鉱鉱床に比較して硫化鉱物のSe/S比は別子型鉱床で有意に高い。高いTe含有量は別子型鉱床でTeに富む砒四面銅鉱が見出されることに対応している。 2.現世の海嶺中軸部の海底熱水系では,陸源堆積物の有無が硫化鉱物の種類,微量元素の含有量,硫黄同位体比等に大きな相違を生じている。背弧海盆や大陸内火山性リフトにおいても,地殻の発達段階に応じて化学的鉱物学的に幅のある鉱床が形成されると考えられる。阿武隈帯の日立や舞鶴帯の柵原鉱床は拡大する背弧海盆あるいは大陸内火山性リフトの大陸性地殻上で形成された可能性がある。 3.秩父帯の名野川鉱床は鉱床形成後熱水性珪質堆積物に覆われ,海水による酸化消失を免れた。熱水性珪質堆積物はMnに富むスティルプノメレーンを多く含んでいる。三波川帯で別子型鉱床や塩基性片岩に伴って産出するMnに富む珪質片岩の起源を考える資料を提供する。名野川鉱床の硫化物は現世の海嶺熱水性鉱床と同様に磁硫鉄鉱で代表される低い硫黄分圧の条件で形成された。 4.石炭紀後期に海嶺で形成され,ジュラ紀に大陸縁辺部に付加された丹波帯の土倉鉱床は,チャートが卓越した塁層中に胚胎される。硫化物鉱床は熱水性珪質堆積物によって酸化消失から保護されたと考えられる。黄鉄鉱中には鉄に富む閃亜鉛鉱が包有されている。現世の海底熱水性鉱床と同様に,続成作用の過程で硫黄が添加される反応が生じたと考えられる。 5.別子型鉱床の形成場の解明は日本列島構造発達史を解明する上で極めて重要である。
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