研究概要 |
沈み込み地域での物質循環のタイムスケールに地球化学的な制約をつけるために,ウラン238の放射壊変系列の短寿命放射性核種の放射非平衡現象が用いられてきた.放射非平衡は沈み込む海洋スラブからの流体がマントルに付加するさいにおこるウラン-トリウムやトリウム-ラジウムの化学的な分別で引き起こされると解釈されてきた.島弧の火山岩で見られるトリウム230-ラジウム226間の放射非平衡の存在は,非平衡が本当にマントルで形成されたものならば,マグマの発生から噴火までが数千年のタイムスケールで起きることを示す.放射非平衡がマントルで起きたか検証するひとつの方法は,放射非平衡の大きさと沈み込み帯でのマグマ発生の原因となる流体のもたらした化学作用の大きさの相関を調べることがある.ベリリウム10は宇宙線により生成する短寿命放射性核種であり,地球表層からのみマントルに供給される.島弧地域の火山岩ではベリリウム10の存在が確認されており,地球表層物質のマグマへの寄与が確認された重要なトレーサーである.放射非平衡の大きさとベリリウム10の濃度の相関は,これまで数地域でしか報告がない.本研究では伊豆島弧で両者の相関を調べた. 東大原子力総合研究センターの加速器マスを利用し,これまでに,伊豆大島,三宅島,新島の火山岩試料を分析した.その結果,ベリリウム10の濃度が0.8-1.3×10^6atoms/g程度という結果を得た.10Be/9Be同位体比は,伊豆大島試料が最も高く,三宅島,新島はほぼ等しい.この結果は,238U-230Thの放射非平衡の大きさが三島で単純に減少するのとは対照的である.チリの火山では,238U-230Thの放射非平衡の大きさと10Be/9Be同位体比が相関を示すことから,放射非平衡が流体の脱水により引き起こされたと結論されたが,伊豆島弧では,より複雑な要因を考える必要がある.
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