研究概要 |
本年度は昨年度開発したICP質量分析計による高感度、高精度の白金族元素(PGE)定量法を用い、白亜紀-第三紀(K-T)境界層の堆積物試料および海洋堆積物標準試料の分析を行った。 K-T境界は現在から約6500万年前にあたり、この時代に恐竜の大量絶滅が起きたことが知られている。これに関して様々な説が提唱されているが、その中で有力とされているのが巨大な隕石の衝突(インパクト)による地球環境の劇的な変化である。この証拠とされているのが、K-T境界層の堆積物に地球表層に僅かにしか存在しないPGEの一つであるイリジウム(Ir)が濃縮されている(ng/gのオーダーの濃度で大陸地殻物質の100倍以上)事実である。そこで、この堆積物については他のPGEも濃縮されているものと予想し、Stevns Klint(デンマーク)のK-T境界層試料であるFC-1,2の二試料の測定を行った。その結果、地球表層のPGEの平均的な組成を有すると予想されるレス(黄土)に比べ、いずれのPGEも100倍以上の濃度を示すことが分かった。また、レスのPGEパターン(濃度をCIコンドライトによって規格化し、その値をプロットしたもの)はオスミウム(Os)とIrがパラジム(Pd)と白金(Pt)に比べ下がっているのに対し、FC-1,2はほぼ水平なパターンを示した。これは、FC-1,2に含まれるPGEは地球上の大陸地殻物質から供給されたのではなく、隕石のような水平のPGEパターンを有す物質から供給されていることを示唆する。 比較のため、現在の海洋堆積物試料として地質調査総合センターから発行されているJMS-1(東京湾)、JMS-2(太平洋中央部)の二試料の分析も併せて行った。この両者はいずれもレス同様、OsとIrがPdとPtに比べ下がったパターンを示し、PGEの主要な起源は大陸地殻であることがわかった。
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