本年度はこれまで開発にあたってきたICP質量分析計による高感度、高精度の白金族元素(PGE)定量法を用い、相模湾から採取した海洋堆積物試料(Sagami-1)の分析を行った。そして、河川堆積物標準試料(JSd-2、JSd-3)の分析も併せて行った。 いずれの試料もオスミウム(Os)の濃度は低く上限値(<0.02ppb)が得られただけであった。そして、PGEパターン(濃度をCIコンドライトによって規格化し、その値をプロットしたもの)はいずれもOsとルテニウム(Ru)がパラジム(Pd)と白金(Pt)に比べ下がった、黄土(レス)に類似したものとなった。これは、我々が以前測定を行った海洋堆積物標準試料JMS-1、JMS-2と同じ傾向であり、堆積物中のPGEの主要な供給源である地球表層の岩石の多くはレスに類似したPGEパターンを有することを示唆している。 Sagami-1とJSd-3はパターンも類似しており、濃度レベルはレスとほぼ同じであった。しかしながら、JSd-2は他の二試料に比べ高い濃度を示し且つRhがパターンの中で異常な値(高い値)を示す傾向が見られた。こうしたRhが異常な値を示す傾向は東京湾の標準試料JMS-1でも認められるものである。なぜ両試料が高いRh濃度を示すのか現時点では明らかではないが、互いに隣接する東京湾と相模湾で異なった傾向を示す海洋堆積物が見つかったことは大変興味深いことである。従って、海洋堆積物のRhの濃度はローカルな情報(特別な供給源の存在など)を与える可能性がある。
|