本研究の成果は以下の3つである。 1.体試料中の白金族元素の高精度、高感度定量法の開発とその応用 ファイアーアッセー法とICP質量分析法を組み合わせた高感度、高精度の全白金族元素(PGE、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの6元素)の同時定量手法の開発を行い、標準試料や実際の堆積物に適用した。 カンラン岩の標準試料JP-1の繰り返し測定を行ったところ、全PGEのデータは13-25%の範囲で一致した。Irについてはpreferable valueとして知られている値に比べ高い値となり、preferable valueに問題があることを指摘した。また、Rhについては、回収率の補正を行うことで初めて信頼のおけるデータを得ることに成功した。 そして、実際の海洋および河川堆積物の測定を行ったところ、そのPGEパターンは地球表層の平均的な組成を有すると予想されるレス(黄土)のパターンと類似していることを明らかにした。 2.水のネオジム(Nd)同位体比による元素の水平輸送の見積もり 海洋における元素の輸送のプロセスを明らかにするために、日本近海の4測点のNd同位体比の深度プロファイルを求め、さらに北西太平洋の表面海水のNd同位体比の分布を求めた。その結果、表面から水深100-250m程度においてNdは水平的に活発に輸送されていることがわかった。 3.海水中のスカンジウム(Sc)の高感度、高精度定量法の開発とその海洋化学的研究への応用 前濃縮を伴う放射化分析法による海水中のScの高感度、高精度定量法を開発した。そして、その手法をハワイ沖の測点で採水した試料に適用し鉛直分布を求めた結果、Scは同族元素のイットリウムやランタノイド同様、表層で低い濃度を示し、深層に向かうに従い濃度が増加する所謂「栄養塩型」の分布を示すことを初めて明らかにした。
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