平面偏光のレーザー光によって駆動されるキラル分子モーターの構築理論を確立することが本研究の主目的である。平面偏光の光は物質を回転させる力をもっていないにもかかわらず分子モーターを駆動させることができる。アルデヒド基がエンジン部位である単純で現実のキラル分子を取り上げた。回転機構として、平面偏光紫外部・UV光励起レーザーのポンプーダンプ型の照射によるモーターの場合、電子励起状態を経由する回転波束生成にあることを明らかにした。すなわち、アルデヒド基とUVレーザー電場の双極子相互作用により、回転波束が電子励起状態に生成し、この回転波束が電子基底状態にダンプパルスによって移動され直感的方向(非対称ポテンシャルのゆるい曲面の方向)に回転が生じる。このポンプーダンプ型のレーザー照射の場合、数十フェムト秒の極短時間内に回転運動制御が可能となり、電子励起状態で起こる速い緩和減衰効果を避けることができる。 さらに、これらの研究成果をもとに次の2つの課題を解明した:1)回転方向の制御。任意のキラル分子モーターにおいて、平面偏光レーザーによって、回転方向を直感的、あるいは、非直感的方向に回転制御する方法を確立する。2)光駆動回転制御をより大きい分子集合系に適用する。 第1の課題に関しては、最適量子制御理論を用いることで、任意の方向に回転を誘起させるレーザーの電場を得ることが出来た。その原理は、制御された電場により回転波束の位相がπだけ変化させることによる。より回転方向を選択できる。第2の課題に関しては、赤血球をモデルとして、レーザー強い電場との分極相互作用によって赤血球が変形することを数値シミュレーションにより示した。今後、レーザー誘起赤血球の回転ダイナミクスの解明を行う予定である。
|