研究課題
研究の初年度は、一重項酸素と様々なラジカルの間で発生する電子スピン分極を、時間分解ESR法およびFT-ESR法を用いて正確に測定することを目指した。アントラセンやポルフィリンを光増感剤として用いて一重項酸素を発生し、様々なラジカルによる消光過程で生じる電子スピン分極の大きさPを、時間分解ESR信号時間変化のブロッホ方程式による解析から決定した。各ラジカルでのP値は、熱分布で生じる分極Peを標準値として、TEMPO:300、PTIO:120、ガルビノキシル:0.7、DPPHおよびVerdazyl:0、となった。Pの値が大きいTEMOやPTIOはいずれも不対電子がNO基に局在しており、Pが小さいその他のラジカルは不対電子がπ電子系に広く非局在化している。このことから、不対電子が局在化したラジカルでは一重項酸素との衝突錯体における電子交換相互作用が大きくなり、P値が大きくなると解釈した。また、P値をより正確に観測することを目指してFT-ESR法による電子スピン分極の観測を行った。時間分解ESR法ではPeの値を正確に求めることが困難で、Pの相対値は正確でも、Pの絶対値が誤差の大きなものとなっていた。一方FT-ESR法では、Peによる信号を直接観測できる利点があり、Pの絶対値をより正確に決定できると期待される。本年度は試験測定として、ガルビノキシルと三重項分子の衝突で生じる量子スピン分極を電子スピンの熱分布で生じる分極を標準値として決定し、この方法の有用性を示すことができた。次年度以降は、この方法を応用して一重項酸素-ラジカル系の電子スピン分極強度をより正確に決定する予定である。
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