本研究は、酸素とラジカルの間のスピンの関与した動力学を理解し、新規なO_2(^1Δ_g)の寿命測定法として電子スピン分極をプローブする方法を発展させることを目的とした。そのため、時間分解ESR法を用いてO_2(^1Δ_g)のラジカルによる緩和過程でラジカルに生じる電子スピン分極を観測し、各種ラジカルでの電子スピン分極の大きさを決定した。ニトロキシドやニトロニルニトロキシドでは大きな電子スピン分極が発生したが、ガルビノキシルやDPPH、Verdazylではほとんど電子スピン分極が発生しなかった。得られた実験結果を電子スピン分極の定量理論に基づいて考察し、電子スピン分極の大きさが酸素-ラジカル間の交換相互作用の大きさに依存すること、またその交換相互作用はラジカルのSOMO軌道が小さいほど大きくなるという知見を得た。これより、より優れたO_2(^1Δ_g)のプローブとしては、SOMO軌道が小さなラジカルをデザインすることが重要であると結論した。この方法は、(1)時間分解測定が可能、(2)ラジカル近傍のO_2(^1Δ_g)の挙動を観測可能、(3)常磁性種以外の測定阻害物質がない、などの特徴が見込まれる。提案研究でのスピン分極発生機構解明は、今後の感度向上を目指した工夫への道筋を与えると期待される。また、ポリマーや蛋白質の特定部位をラジカル置換したサンプルを用いれば、特定部位でのO_2(^1Δ_g)の時間分解観測が可能であると期待され、将来不均一な系でのO_2(^1Δ_g)寿命測定手法になり得ると期待している。
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