常温で液体である低分子量化合物は、工業材料として、また物性への興味から多数の研究が行われている。しかし、その分子構造はスペクトル的手段でしか調べられなかったため、物性を分子の三次元構造の面から議論することができなかった。 本研究では、これまで開発してきたin situ crystallization法と迅速X線回折測定法を組み合わせることにより、液体化合物を低温下で単結晶化し結晶構造解析により三次元分子構造を明らかにし、構造と物性の相関を明らかにすることを目的としている。 本年は、酢酸エステル誘導体CH_3COO(CH_2)_<n-1>CH_3(n=1-5)の鎖長と融点の相関を調べた。この物質はアルキル鎖長が奇数の結晶は融点が低く、偶数では長いという偶奇性が知られていたが、この傾向は鎖長が長くなると消失するなど興味ある傾向を示す。そこで、酢酸エステル類の単結晶X線構造解析を行い、その分子構造や結晶構造を明らかにした。 結晶構造中のCH-H・・・O相互作用を見ると、C-H・・・O相互作用による二量体構造を含む酢酸エチル・酢酸ブチル・酢酸アミルとそれを含まない酢酸メチル・酢酸プロピルの2パターンに分類することができた。酢酸メチル、酢酸プロピルの融点が酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルの融点と比べて低いのは、相互作用のパターンが異なることに加え、結晶構造中のC-H・・・O相互作用が酢酸エチル・酢酸ブチル・酢酸アミルに比べて酢酸メチル・酢酸プロピルの方が少なく、分子間相互作用が弱いことに起因していると考えられる。 また、鎖長が長くなるにつれ、アルキル鎖間のvdw相互作用が増大し、これによって結晶の安定性が支配されるようになるため、相対的にC-H...O相互作用が減少し、融点の偶奇性が消失するという機構を明らかにした。
|