研究概要 |
酸素分子の最低電子励起状態は一重項酸素分子,O_2(^1Δ_g),と呼ばれる代表的な活性酸素であり,数多くの研究が行われてきた。一重項酸素分子は光酸化反応の活性中間体であり,その検出と定量法の確立には重要な意味がある。一重項酸素分子はスピン角運動量がゼロの一重項状態であるが,軌道角運動量がゼロでないため常磁性であり,電子常磁性共鳴(EPR)法により検出可能である。本研究においては基底三重項酸素分子,O_2(^3Σ_g^-),のEPR信号が一重項酸素分子と同時に観測される点に着目し,基底三重項酸素分子を濃度標準とした一重項酸素分子の信頼性の高い定量法を開発した。 EPR信号はJEOL-FA200Xバンドスペクトロメータに自作の100kHzアンプを介してVarian V-4535大口径空洞共振器を接続し,室温において測定した。一重項酸素分子の発生方法としては,気相における光増感反応を利用した。一重項酸素分子のEPR信号観測に成功した増感剤は,現在のところベンゾフェノン,ナフタレン,1-フルオロナフタレン,オクタフルオロナフタレンである。励起光源として,Canrad-Hanovia 1 kW水銀-キセノン灯を用いた。 光照射により,一重項酸素分子の特徴的な4本線のEPRスペクトルが1T付近に観測された。基底三重項酸素分子のEPR信号強度が光照射とともに減少し,同時に一重項酸素分子の信号が立ち上がることが確認された。励起光を遮断すると,一重項酸素分子の信号強度が減少しゼロになると同時に,基底三重項酸素分子の信号強度が励起前の強度に戻る。このことは,全酸素分子の何パーセントが一重項酸素分子に変換されたかをEPRから精度良く見積ることが可能であることを示している。我々の実験条件下では,全圧0.3Torrにおいて全酸素分子の約40%を一重項酸素分子に変換できることが分かった。
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