本年度得られた結果を大別すると以下の二点に分けられる。 (1)結晶構造と多重バンド効果 2重バンド構造を取り得る二つの結晶構造についての理論的考察を行った。有機分子性結晶の多くに見られるヘリーンボーン構造と無機結晶に見られる2層構造について、Random-phase近似の範囲内でHeisenbergモデル中の有効交換積分Jを見積もることにより結晶系の磁気的相互作用を調べた。ヘリーンボーン構造はフェルミ面が変化しても常に反強磁性的相互作用をすることが分かった。また2層構造ではhalf-filling近傍では強磁性的相互作用となり、フェルミ面が変化することにより反強磁性的相互作用となることが理論的に示された。このことは2層構造をもつ無機結晶ではホールもしくは電子のドーピングにより強磁性-反強磁性転移の可能性を示唆している。ヘリーンボーン構造を持つ有機分子性結晶ではhalf-filling近傍で大きな反強磁性相互作用を示す。 (2)多重バンド系における有効電子間相互作用 Hubbardモデルを用いて2次元2サイト格子モデルの有効電子間相互作用を考察した。金森のt-行列法(ladder近似)を2バンド系に拡張を行った。この2バンド系ladder近似を用いて有効電子間相互作用を理論的に考察した。この結果、バンドに電子がほとんど充足された状態(ホールドーピング)もしくは電子が少し充足された状態(電子ドーピング)では電子対バンド間散乱過程が現れることが分かった。このことは2バンド超伝導発現の可能性を示すものである。
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