研究概要 |
反応やスペクトルなどが媒体の影響を受けることはよく知られている.アルコールなどプロトン性溶媒を用いた場合,溶媒効果として一般的な極性効果に加えて水素結合効果が働くが,両者の分離は重要な課題である。本研究では多成分発光スペクトルを示すいくつかの分子内および分子間の電子供与体-受容体系を取り上げ、スペクトルの溶媒依存を解析することによりプロトン性溶媒の水素結合効果と極性効果を分離する方法を提案している。 4-phenyl-1-N,N-dimethylaminobutane(PDAB)とトルエン(T)-トリエチルアミン(TEA)系のTHF中の発光スペクトルに及ぼすプロトン性および極性非プロトン性溶媒の添加効果を定常光照射の条件下で研究した。PDABとT-TEA系のTHF中の発光スペクトルはベンゼン環の蛍光(バンドA)、アミンの蛍光(バンドB)およびエキシプレックス発光(バンドC)の三成分からなることが知られている。バンドBとCの強度は溶媒極性が大きくなるにつれて、またアミンとプロトン性溶媒との間の水素結合により減少するが、バンドAの強度は水素結合によって逆に増大することが観測された。アセトニトリルは極性の効果のみをもち、トリクロロ酢酸は水素結合効果(プロトン付加の効果)のみをもつのに対してアルコール類は両方の効果を示すことがわかった。アセトニトリルとトリクロロ酢酸をそれぞれ極性効果と水素結合効果の標準として、アルコール中のスペクトル変化を水素結合効果と極性効果に分離した。 以上のように多成分発光系のスペクトル変化を解析し、微視的環境変化に因子特異的に応答する変化を抽出することにより、プロトン性溶媒の水素結合効果と極性効果を分離することに成功した。
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