研究概要 |
ペプチドモデル分子として1,4-ペンタンジオール(1,4-PD)を用い、エタノール(EtOH)およびトリフルオロエタノール(TFE)と水との混合溶液中における溶存挙動を研究した。1,4-PDは、疎水部として炭素鎖と親水部として2つの水酸基をもつ鎖状分子であることから、ペプチドモデル分子として用いた。1,4-PDの溶存挙動は、^1Hおよび^<13>C-NMRケミカルシフトを測定し(25℃)、その溶媒組成依存性を観測することで議論した。この測定では、基準物質に対する試料溶液の磁気遮蔽を正確に補正するために外部複基準法を用いた。EtOH-水ならびにTFE-水混合溶液の組成はアルコール体積分率で、0,1,2,3,5,10,20,30%v/vとした。 ^1H-NMR測定では、溶媒分子のピークに1,4-PDのピークが重なってしまうこと、1,4-PDのピークが観測されたとしても^1H核の電子密度が本来低いことから、それらのケミカルシフトの溶媒組成依存性を明確にとらえることが困難であった。これに対し、^<13>C-NMRでは、1,4-PD分子中の炭素部位により興味あるケミカルシフトの組成依存性が観測された。 EtOH-水混合溶液中では、水酸基が結合した1および4位の炭素原子の^<13>C-NMRピークはEtOH濃度増加にともない高磁場シフトし、末端にある5位炭素原子は低磁場シフトした。これは、水酸基に水和していた水分子がEtOH濃度増加とともに脱水和されたことにより1および4位炭素原子の電子密度が増加したためと考えられた。さらに、これの影響を受けて5位炭素原子の電子密度が減少したと考察した。 これに対し、TFE-水混合溶液の場合、1および4位炭素原子のケミカルシフトの組成依存性は極めて小さかった。これはTFE濃度が増加しても水酸基を水和している水分子が脱水和されにくいため、炭素原子の電子密度が大きく変化しなかったことによると考えられた。EtOH系とTFE系で最も顕著な相違が観測されたのは5位炭素原子であった。EtOH系では5位炭素原子はアルコール濃度増加にともない低磁場シフトしたのに対し、TFE系では大きく高磁場シフトした。この結果は、疎水性の高い5位メチル基がEtOH分子より疎水性の高いTFE分子と強く相互作用していることを示唆している。こられのことから、1,4-PDの溶存挙動は、水酸基に対する水和のみではなく疎水性部位に対するアルコール分子の相互作用にも影響されることが考察された。これをアルコール誘起によるタンパク質のフォールディングに置き換えれば、タンパク質の親水部への水和と疎水部に対するアルコール分子の相互作用がフォールディングをコントロールしているといえる。今後は、1,4-PDの濃度依存性やコンフォメーション変化およびそれらの圧力変化を研究していく。
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