研究概要 |
本研究は、アルコール誘起によるタンパク質のフォールディングのメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とした。まず、X線および中性子散乱法により、各種アルコールと水との混合溶液中に形成されるクラスターの構造ならびにサイズを明らかにした。大きな疎水基サイズのアルコールほど低アルコール濃度で水の氷類似構造を破壊し、アルコールクラスターを形成しやすいことがわかった。特に、小角中性子散乱実験の結果は、フッ素化アルコールであるトリフルオロエタノール(TFE)やヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が水溶液中でクラスターを形成しやすいことを示した。この結果とエタノール(EtOH)や2-プロパノール(2-PrOH)などの脂肪族アルコールよりもフッ素化アルコールの方がタンパク質のフォールディングを強化することを合わせると、クラスター形成とフォールディングとの関連性が考えられた。 次に、各種アルコール-水混合溶液中にペプチドモデル分子として炭素鎖の疎水部と水酸基の親水部をもつ1,4-ペンタンジオールを溶解し、その溶存挙動を赤外分光法ならびにNMR法により研究した。エタノールおよび2-プロパノールは、1,4-ペンタンジオールの水酸基を脱水和する効果が強く、TFEやHFIPでは1,4-ペンタンジオールの疎水部に強く相互作用することがわかった。また、アルコール分子と1,4-ペンタンジオールとの疎水性相互作用の強さは、HFIP>TFE>EtOH【approximately equal】2-PrOHの順であることが明らかになった。これは、タンパク質のフォールディングに対する効果の順と一致していた。本研究により、アルコールクラスターとタンパク質との相互作用がフォールディングに大きく寄与していることが示唆された。
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