研究概要 |
超臨界状態の最大の特徴は臨界点付近における圧縮率の発散的増大であるが,電子・イオンの移動度,電子反応速度のいずれに対しても圧縮率が支配的な決定因子である.1.Xe,Kr中では電子は準自由状態にあるので,電子移動度の記述に変形ポテンシャル理論が適用できる.ポテンシャルの揺らぎは媒質の密度揺らぎに起因するが,密度揺らぎの表現に等温圧縮率X^Tを用いると長い時間スケールの揺らぎを与え,特にX^Tの発散する臨界密度付近で過大な見積もりを与える.準自由電子はこのような遅い過程には影響されないので,揺らぎをX^Tの代わりに,断熱圧縮率X^Sによって音響フォノンとして取り扱うと(M.Nishikawa, Chem.Phys.Lett.114,271(1985)),臨界密度以下の低密度領域で電子移動度の密度変化を極めて忠実に再現することをKr中でも確認した.(論文準備中)2.Xe_2^*はXe_2^+と電子の再結合反応により生成するが,Xe_2^*は少量のエタンの追加により速やかに脱活性化される.3.電子の溶質分子による捕捉は,生成する負イオンが周囲の媒質の分極によって安定化されるから,反応速度はX^Tの発散的に増大する領域で急激に増大する.C_6F_6+e^-→C_6F_6^-の反応速度定数は1×10^<15>m^<-1>s^<-1>にも達し著しく速く,活性化体積はX^Tのピークとなる圧力(密度)領域でおよそ-25/mol程度にも達することが判明した.この体積変化は負イオン周辺の密度増加による圧縮率の低下を考慮に入れたCompressible Continuum Modelでほぼ忠実に再現することができた.このモデルは熱力学的に安定なイオンクラスターを取り扱うので,活性錯合状態は最終状態C_6F_6^-に近いことが結論される.O_2による反応は同様な変化を示すが,2×10^<11>m^<-1>s^<-1>程度ではるかに遅い.小さいO_2^-イオンによる分極の強さと捕捉される準自由電子のエネルギー状態(V_0)のギャップが大きいためと思われる.4.C_6F_6^-の移動度を測定し,電荷移動反応C_6F_6^-BQ→C_6F_6+BQ^-が拡散律速で,クラスターサイズ=反応断面積が最大となるX^Tのピーク密度で最大値1.8×10^<11>m^<-1>s^<-1>を示す.このような興味深い結論を得ることができたのは,ブルックヘブン国立研究所・化学部の光化学・放射線化学グループの協力により同部の2Mev Van de Graaff加速器と10ピコ秒パルス・レーザー電子線加速装置(LEAF)を使用できたことによるものである.
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