研究概要 |
蛋白質の構造安定性には溶媒である水との疎水相互作用が重要であることがよく知られている.しかしながら,いくつかの事例,特に圧力効果などにおいて,矛盾点も指摘されている.本研究では,単純鎖状分子の配座異性平衡をモデル系としてその物理化学的解明を目的としている.鎖状分子の中でも特にターゲットとしてブタンを想定している.今年度は,その第一ステップとしてブンタンおよびヘキサン純液体の配座異性平衡に及ぼす圧力効果をFT-IR法により調べた.圧力増加に伴い,ブタンではゴーシュ体が増加することを観測した.ヘキサンでは分子軌道法による帰属を基に,各種異性体ごとの存在率の圧力依存性を詳細に解析した.結果の詳細は省くが,ゴーシュ配座を含む異性体が高圧下で増加することが確認できた.一回転軸あたりのトランスからゴーシュ中への配座変化に伴う体積変化は,約1cm^3/molの減少となることを赤外強度の圧力依存性から決定した.これらの値は,無極性溶媒中での他の分子系で報告されている値と近い値をとっており,無極性溶媒中での共通する特徴であるといえる.すなわち,斥力相互作用が支配的な液体中では,ゴーシュ体はトランス体に比べて約1cm^3/mol体積が小さいといえる.また,高圧結晶ではいずれの分子もすべてトランス体のみの配座となった.高圧結晶中の分子の配座に関する研究例は少ないが,いずれも今回と同様の結果が得られており,対称性の高い配座が高圧結晶では有利であるという一般側が成り立つかもしれない.これらアルカン分子以外にも,水への溶解度の高いハロアセトン分子の配座異性平衡に及ぼす温度・圧力・溶媒効果を系統的にラマン分光法により調べた.フルオロアセトン,クロロアセトン,プロモアセトンの配座異性体間のエンタルピー差および体積差を,水を含む各種溶媒中で決定した.これらの熱力学量とハロゲンの種類の効果を系統的に解析し,それぞれでの水和の特徴を議論した.
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