研究概要 |
蛋白質の立体構造形成の物理化学的機構として疎水性相互作用(疎水性効果)が重要な因子であることがよく知られている。本研究では単純鎖状分子の配座異性平衡をその疎水性効果のモデル系として、分光学的研究を行うことを目的とした。最も単純かつ理想的なモデル系はブタンのトランスーゴーシュ平衡であり、これを対象系の第一候補した。ブタンの配座異性平衡の検出にはラマン分光法が最も適している。しかしながら、ブタンの水への溶解度は非常に低いため、測定は困難を極めた。当該期間内に定性的な測定には成功したが、公表できる定量的な測定には至っていない。現在も研究継続中である。ブタン以外の類似系として,ブタンと同様に疎水性鎖状分子であるハロエタン・プロパン分子の配座異性平衡に及ぼす温度・圧力・溶媒効果をラマン分光法により系統的に調べた。トランスからゴーシュ体へ異性化の熱力学は、ΔH>0,ΔS>0を示し、蛋白質のrefolding反応の熱力学と一致した。また、圧力効果から得られたΔVはいずれの対象分子系においても負の値を示した。蛋白質の圧変性機構は未だに不明な点が多く、これらの基礎データは重要である。これらの成果は現在投稿準備中である。また、蛋白質中のジスルフィド結合のモデル配座平衡として、ジエチルスルフィドの配座異性平衡を対象に温度・圧力効果を調べた。最後に、蛋白質の構造形成のモデルとして、アラニンとリジンからなるAla-richペプチドのhelix-coil平衡に及ぼす圧力効果を調べた。加圧により平衡はhelix側にシフトした。これらは蛋白質の圧変性とは逆の結果であり、今後疎水性効果も含めて重点的に研究を進める必要がある。また、本題のブタン分子系は疎水性効果を調べる上で最も理想的な系であることに間違いない。本研究において測定の足がかりは得ており、近い将来確定的な成果が得られる見通しである。
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