西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の活性部位に存在する遠位ヒスチジン残基は、この酵素の活性発現に必須のアミノ酸残基である。この研究では、活性部位、特に遠位ヒスチジンの構造と酵素機能との関連について明らかにすることを目的としている。報告者は紫外共鳴ラマン分光法により、一酸化炭素配位HRPの遠位ヒスチジンのスペクトルを測定できることを見いだしている(投稿中)。その結果によると、遠位ヒスチジンには、強く水素結合を形成したものと弱く水素結合を形成したものの2種類が存在する。可視ラマンの結果においても、一酸化炭素の配位様式にはlinear formとtilted formの2種類があることがわかっている。またHRPには2モルのカルシウムイオンが結合しており、どちらかを取り除くと活性が低下する。Ca^<2+>-freeHRPの一酸化炭素複合体および基質類似化合物であるベンゾヒドロキサム酸などの基質結合体の一酸化炭素複合体の赤外スペクトルを測定した。鉄配位一酸化炭素のC=O伸縮振動バンドは2本観測され、その相対強度がnative酵素と異なっていることが分かった。溶液のpHを変えて赤外スペクトルを測定すると、pKa=8.6のイオン化に関する解離基のpKaがアルカリ側にシフトしていることが分かった。紫外ラマンの結果より、この解離基は遠位ヒスチジンであることが分かっているので、カルシウムイオンが遠位ヒスチジンのpKaをコントロールしていることが示唆された。また、基質類似結合体のスペクトルはそのC=O伸縮のバンドがすべて2cm^<-1>高波数にシフトするという興味深い結果を得た。これは、おそらく分子ないシュタルク効果によるものと推測される。
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