研究概要 |
フタロシアニンは,染料・顔料として利用される他,センサー,触媒,光ディスク,癌の光学治療薬として応用されている機能性色素である。この化合物の機能化のためには,Q帯と呼ばれる吸収帯の長波長シフトが重要であることが知られており,これまで多くの研究者により共役系の拡張,歪みやヘテロ原子の導入などが検討されてきた。 一方,最近我々は,ジアルキルテトラブロモベンゼンと単体硫黄をDBU中で反応させることにより,ジブロモベンゾトリチオールが得られることを発見した。そしてこの化合物を出発物質としてフタロシアニンを得るため,ベンジルチオ基やキシリレンジチオ基を有するフタロニトリルを合成し,フタロシアニンへの変換を試みた。その結果,これらの置換基を有する対称型および非対称型のフタロシアニンを得ることができたので,次にこれらのフタロシアニンを用い,脱保護反応と硫黄化・環化反応を試みた。この反応により,4つのトリチオール環を有する対称型フタロシアニンと1つのトリチオール環を縮環した非対称型フタロシアニンを高収率で得ることができた。以上のようにして,目的のフタロシアニン誘導体を得ることができたので,紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。その結果,これらの化合物のQ帯吸収は,無置換フタロシアニン(680nm付近)に比較して大きく長波長シフトしていることが明らかとなった。一方,トリチオール環を有するフタロシアニンの濃硫酸中での紫外可視吸収スペクトルは,クロロホルム中で測定したものに比べさらに約120nm程長波長シフトして観測された。これは硫酸溶液中ではこのフタロシアニンがラジカルカチオンやジカチオンを発生していることを示しており,興味深い結果である。また,五塩化アンチモンを用いた酸化反応においても同様の結果が得られた。今後有機導電体や磁性体などのナノデバイスへの応用も検討して行く予定である。
|