研究概要 |
電子移動化学分野において,ケチルラジカルと分子内官能基との反応機構の解明は重要な課題であるが,ケチルラジカルの分子内反応性に関する情報は意外に少ないのが現状である。このような背景を踏まえ,平成15年度は,2-ハロメチル-2-(3-ブテニル)置換芳香族環状ケトンをモデル反応基質として,光誘起電子移動反応において生成するケチルラジカルと分子内の炭素-ハロゲン結合との反応性について検討した。はじめに,トリストリメチルシリルシランとの熱反応にょり上記反応基質のラジカル反応プローブ機能を検証した。次に,アミン類との光誘起電子移動反応を行ったところ,炭素-ハロゲン結合の開裂により生成した炭素ラジカルからの特徴的な転位生成物が得られた。これは,反応基質のハロゲン置換基の種類や環サイズの違いなどに依らず一般的な現象であった。このことより,"光誘起電子移動反応により生成するケチルラジカルは分子内の炭素-ハロゲン結合に対して求核置換反応ではなく一電子移動を起こす"と結論した。また同反応系に,種々のルイス酸(金属塩)およびブレンステッド酸を添加したところ,この分子内一電子移動過程が抑制されることが分かった。さらに、メトキシアレーン増感剤を用いる同反応基質の光増感反応を行ったところ,前例のないハロゲン原子移動反応が進行することを発見した。そして,メトキシアレーンラジカルカチオンとハロゲン化物イオンとの間の一電子移動が関与する機構を新たに提案した。今後は,1)他のカルボニル反応基質の光誘起電子移動反応におけるプロトンおよび金属イオンの影響の検討,2)上記の新規ハロゲン原子移動反応機構の解明,3)上記反応基質の他の電子移動条件(金属還元剤を用いる熱反応など)における反応の検討,などを行う。
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