研究概要 |
平成16年度は,前年度に開発した光誘起電子移動および金属酸化還元剤を用いる新規分子変換法の反応機構的検討を行い,それに基づくより一般性の高い方法への発展を主目的に研究を実施した。はじめに,種々のケチルラジカルプローブ基質を用いて2-(2'-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジメチルベンズイミダゾリン(ο-HPDMBI)の光誘起電子移動反応性の調査を行った。特にベンゾフェノンを用いる反応系の検討より,プロトン供与体存在下におけるο-HPDMBIと1,3-ジメチル-2-フェニルベンズイミダゾリン(DMPBI)の二つのラジカルカチオンの対照的な反応性を明らかにした点は注目に値する(論文投稿準備中)。また,Ru(bpy)_3Cl_2とο-HPDMBIあるいはDMPBIとの組み合わせによる複合光増感法について検討し,従来の1,6-ビスジメチルアミノピレンとこれらベンズイミダゾリン誘導体を用いる方法と相補的であることが示された。さらに現在,ケトン基質と上記ベンズイミダゾリン誘導体の溶液反応を固相反応(無溶媒反応)へと展開する試みを行っている。今後も,ベンズイミダゾリン誘導体の特徴を生かした新規反応系の開発および新規誘導体の創製をさらに推進していく。次に,ヨウ化サマリウム(II)による分子内サマリウムケチル-エステルカップリング反応については,アルコキシカルボニル置換鎖状ケトンへの展開を試みた。また,新たにアシルオキシ置換ケトンへと展開し環状エーテル化合物の合成に成功した(論文作成中)。ヨウ化サマリウム(II)とアルコキシカルボニル置換環状ケトンの反応で得られる双環状シクロプロパノール誘導体の酸化的開環反応については,機構的検討と合成化学的検討を行った。この一連の反応は,"連続的な還元-酸化による環化環拡大反応過程"と見ることが出来る。今後はこの新規コンセプトの一般性の拡張を行っていく。
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