申請者は既にSmI_2を用いた1電子移動反応条件下において、N-Hラクタムとカルボニル化合物とを反応させたところ、極めて高収率で対応する新規なN-Cカップリング生成物が得られることを見い出し、最も簡便な手法によるα-アミログルコシダーゼ阻害剤lentiginosineの全合成を報告している。またごく最近、容易に誘導されるイオウ置換ラクタムを同様の条件下においてカルボニル化台物と反応させたところ、これまでとは全く反対のerythreo-選択性で対応する新規な脱硫-カップリング生成物が得られることも見い出している。ところでこれらとは別に、このイオウ置換ラクタムあるいはアルキル誘導体を水溶液中で様々なLewis酸と処理したところ、極めて興味深い脱硫-ヒドロキシル化反応生成物が、開環生成物を伴わずに高収率かつ位置および立体選択的に得られることを見出した。そこで本報告では、これらの全く新しい知見について詳細に検討し、以下の結果を明らかにした。 1)脱硫-カップリング、脱硫-ヒドロキシル化反応に対して、どのような官能基を持つ構造まで対応可能か。新規に開発された脱硫-カップリング反応は芳香族化合物のみ対応可能であり、脂肪族化合物に関してはほとんど進行しなかった。また脱硫-ヒドロキシル化反応は脂肪族をはじめとし、官能基を持つもの、さらには様々な芳香族化合物までの幅広い範囲で利用可能であることが示された。 2)脂肪族、芳香族系化合の差異、および分子内反応に適用可能か。様々な角度から研究を実施した結果、上記の脱硫-カップリング反応が脂肪族で起こらない理由は、共鳴構造を取れないために1電子移動によって生じたラジカルへの安定度の寄与が低いのではないかと考えている。分子内反応への適用に関しては、環状誘導体を合成して実施した結果、十分対応可能であった。なお、脱硫-ヒドロキシル化反応の差異は認められず、極めて汎用性の高い新反応であることが分かった。
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