研究概要 |
さまざまな光学活性化合物の中で、絶対配置を決定する方法の開発が最も遅れているカルボニル化合物の重原子置換結晶性誘導化試薬の開発をまず行った。基本骨格はフェニルヒドラソンとし、重原子として塩素原子を、さらに結晶性の向上をねらってニトロ基を導入した化合物を検討した。 まず、市販のハロゲン置換phenylhydrazineを用いて検討したが、平面性の化合物では良好な結晶性誘導化試薬とはなりえなかった。そこで合成に先立って幾つかのモデル化合物を設計し、Gaussian98を利用したab initio法による分子軌道計算で構造最適化を行い、結晶構造に影響を与えるような構造変化を見積もり分子設計を行った。その結果、オルト二置換のdinitrochlorophenylhydrazineが重原子置換結晶性誘導化試薬として優れていると予想された。そこで市販のアニリン誘導体から2-chloro-4,6-dinitrophenylhydrazineを合成し、さまざまな光学活性カルボニル化合物とのhydrazoneに誘導し、結晶化を行った。光学活性なカルボニル化合物は、さまざまなα,β-不飽和カルボニル化合物のSaccharomyces cervisiaeおよびそこから単離した還元酵素による不斉還元により合成した。 MoおよびCuのKα線を用いて、合成したhydrazoneの回折データを収集し、構造解析を行った。絶対構造はFlackパラメータ、R因子法、およびBijvoet pairの強度比較により決定した。何れの化合物においても良好な単結晶が得られ、簡便にカルボニル化合物の絶対配置を決定することができた。 このhydrazineの誘導化試薬としての一般性を明らかにするために、市販の光学活性カルボニル化合物や、ヒドロキシケトンなどについても検討し、この化合物がさまざまなカルボニル化合物の重原子置換結晶性誘導化試薬として優れていることを明らかにし、光学活性なカルボニル化合物の簡便な絶対配置決定法の開発に成功した。
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