アシルポリシランの異性化によるシレン生成は、有機ケイ素化学において最も重要な反応のひとつであり、シレン生成の手段として広く利用されているが、その反応自身の機構に関しては、明らかにされていなかった。 本研究は、この異性化の反応機構の解明を目的として、各種のアシルポリシランをメタノール、ジエン類などの大過剰のシレン捕捉剤の存在下で加熱して、NMRスペクトルで反応の進行を追跡することにより、熱異性化によるシレン生成の擬一次反応速度定数を決定した。さらに、反応速度定数の温度依存性から、このシレン生成反応の速度論的パラメータを求めることに成功した。その結果、すべての場合で大きく負の活性化エントロピーが得られた。シレン生成の過程において、高配位ケイ素を含む分子内の協奏的な環状の遷移状態が存在しており、ラジカルや双性イオンのような段階的な反応や分子間反応が含まれていないことを示している。また、原料のアシルポリシランのカルボニル上の置換基が、アルキル基からより電子吸引性のアリール基にかわると、反応速度が急激に低下することを見出した。電子吸引性置換基の存在によりカルボニル酸素の電荷密度が低下することによって、環状遷移状態においてケイ素が高配位状態を取りにくくなるためと考えられる。さらに、反応速度は、溶媒の極性には大きく依存しないことが明らかになった。遷移状態で大きな分極が起こっていないことを示す結果であると理解できる。 その他、ポリシランニトリルの熱異性化からのシリレン種の生成、ヒドロクロロメチルシランからのシレン生成について検討した。
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