生体内のタンパク質上で行われている高効率型化学合成を、人工的に作った分子フラスコ(=カゴ状大環状化合物)内でも効率的に行なわせることができるかという発想の基に、この申請研究を提案した。生体内のタンパク質合成反応場は三次元的な空間であり、水素結合やπ電子相互作用および空間的立体反発などをうまく利用した生体フラスコを提供している。そこで、我々が開発した酢酸マンガン(III)を用いる分子間および分子内ラジカル環化反応を利用した大環状化合物の合成反応を用いて、オリジナルのカゴ状大環状化合物の合成を試みた。 我々は酢酸マンガン(III)の分子間および分子内ラジカル環化反応に基づく大環状化合物の合成を完成し、報告してきた。現在のところ、本方法によりジヒドロフラン環を縮環した50員環までのシクロファン型マクロジオリド類がよい収率(60-80%)で合成できる。ラジカル環化反応で大環状化合物を合成するという方法は他に類を見ないが、大変収率がよいのは驚くべき特徴である。そこで、独創的とも言える本方法を用いて新規カゴ状大環状化合物の合成を試みた。次に、合成されるカゴ状大環状化合物を用いて、1)カゴ状大環状化合物空隙内への有機ゲスト分子の包接、2)水素結合やπ電子相互作用および空間的立体反発などの内的要因による有機ゲスト分子および試薬類の空隙内固定化、3)空隙内における有機ゲスト分子および試薬類の高効率的反応、4)反応後、有機溶媒による洗い出し、続いてのクロマト分離による生成物の単離、および5)カゴ状大環状化合物の回収および再利用を予定した。 本研究では残念ながらカゴ状大環状化合物の合成までは行えなかった。しかし、連続分子間および分子内マクロ環化を用いた65員環までのシクロファン型大環状化合物の合成に成功した。また、同様の分子内マクロ環化を用いて、9員環から18員環までのマクロジオリド類の合成が達成できた。その他、カゴ状大環状化合物の合成が達成された際のゲスト化合物を多数合成できた。 今後、合成できた新規シクロファン型大環状化合物が分子フラスコとして機能するかを検討する予定である。また、最終的には新規カゴ状大環状化合物の分子フラスコとしての機能性を充分踏まえた上で、立体選択的な有機合成と不安定化合物の合成を検討し、生物模倣的反応を超分子化学を用いた精密化学へと発展させることを将来の目標としている。
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