研究課題
昨年度に引き続き、磁化率の温度変化とNMR常磁性シフトを解析することにより同一構造を持つ一連のf^8〜f^<13>希土類錯体群の基底多重項副準位構造と配位子場パラメータを多次元最適化手法を用いて決定する手法を用い、4f電子系の電子構造と静的・動的磁性について研究を行った。その結果、希土類単分子磁石における磁化量子トンネリングを初めて発見した。遷移金属クラスター単分子磁石の磁化履歴曲線には量子論的効果に基づく階段状の構造が現れることがあることが報告されている。これの現象は階段状構造の各ステップにおいて、磁化量子トンネリング(Quantum Tunneling of Magnetization)によって磁化緩和することに起因する。この現象の発見に基づき、単分子磁石の量子コンピューターへの応用の可能性が提案されている。希土類単分子磁石において量子トンネリング過程による磁気緩和の有無を調べるためにmicro-SQUID法による磁場-磁化曲線の測定を行った。測定は[Pc2Tb]・TBA+を反磁性で同構造の[Pc2Y]・TBA+中にドープした単結晶試料について行った。その結果、Tb錯体について階段状構造がヒステリシスループ内に観測された。これに加え、Ho錯体がsub-kelvin温度領域でヒステリシスを示すことを新たに見出した。この錯体でも階段状構造が観測された。これらの結果は、希土類単分子磁石において量子トンネリング過程が存在することを示している。これらの階段状構造は核磁気モーメント(ITb=3/2;IHo=7/2)とf電子間の相互作用と、配位子場ポテンシャルを考慮した数値計算によって説明できた。このことは、希土類錯体の単分子磁性を考える上で核スピンの存在を考慮することが不可欠であることを示している。また、希土類錯体によって「量子重ねあわせ状態」が実現できることが示された。
すべて 2006 2005
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