研究概要 |
今年度は,感光性部位として期待されるアゾ基,プロトン脱着部位としてヒドラゾンを骨格内に有する配位子を主に使用してパラジウム(II)錯体を合成し,外場応答性の開拓とその発現メカニズムの理解を目的とする研究を行った。 まず,o-トルエンアゾ-2-ナフチルアミンと各種アルデヒド誘導体(2-ピリジンアルデヒド,6-メチル-2-ピリジンアルデヒド,2-キノリンアルデヒド)から得た配位子を有するパラジウム(II)錯体を合成した。それぞれの錯体について^1H NMRおよび吸収スペクトルの測定,X線構造解析を行い,配位子内にトリアジン骨格を有する錯体の構造を明らかにした。これらの錯体のジクロロメタン溶液に少量のメタノールを加えると急速な色変化が観測され,反応液から上述の錯体とは異なる錯体が得られた。各種測定を行った結果,メトキシ基の付加によるトリアジン環の開環にともなってアゾ基のN原子が配位したパラジウム(II)錯体であることを明らかにした。この錯体は,少量のHClの添加により再びトリアジン環を有するもとの構造に戻る。即ち,可逆的なトリアジン環の開環・閉環反応がパラジウム(II)錯体上で起こることを見出した。この反応メカニズムを明らかにするため,反応の平衡と速度に関する定量的な解析を試みた。 次に,2-ヒドラジノピリジン,ベンゾイルヒドラジン,2-ピコリン酸ヒドラジドとアルデヒド誘導体(2-(tert-ブチルチオ)ベンズアルデヒドおよび2-(メチルチオ)ベンズアルデヒド等)から得たヒドラゾンを配位子とするパラジウム(II)錯体を合成した。これらの錯体では,酸や塩基の添加によりヒドラゾンのN原子上のプロトンが可逆的な付加と解離を起こすだけでなく,配位イオウ原子上のtert-ブチルの解離反応が起こった。即ち,プロトン濃度の変化に連動して配位イオウ原子上のS-C結合の活性化が発現する系を見出すことができた。 以上のように,概ね順調に研究を遂行することができたと考えられる。
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