医薬品の開発過程において有効なスクリーニング系の確立は不可欠であり、特にin vitroでのスクリーニング系として簡便、廉価な方法が望まれる。ここ数年、核磁気共鳴(NMR)法の薬剤スクリーニングへの応用が試みられており、新規なスクリーニング法として注目されている。既存の方法として、レセプターとなるタンパク質を^<15>Nなどの安定同位体で標識し、リガンドとの結合を2次元^1H-^<15>N相関スペクトルによりモニターする方法がある。長所としては、短時間で相互作用の確認ができ、また結合部位に関する情報を得ることができる。短所としては、安定同位体などのコストがかかることや測定可能なタンパク質の分子量制限(30-40kD)などの各種制限より、適用範囲に限界がある。 本研究では、既存の測定方法の短所を克服すべく、迅速、廉価なNMRによる新規薬剤スクリーニング系の開発を目的とした。具体的には安定同位体を使用せず、分子間相互作用に関与するリガンドまたはレセプターの水素核を1次元スペクトルで検出し、高親和性のリガンドを短時間で選別する手法の開発に取り組んだ。ヒト血清アルブミン-サリチル酸複合体およびRibonucleaseT_1-阻害剤複合体をモデル化合物として使用し、NOEポンピング、STE、WatetrLOGSYスペクトルの測定を行った。今年度新たに行ったRibonucleaseT_1-阻害剤複合体に関しては、WatetrLOGSY法でのみ分子間NOEピークが観測された。以前行ったヒト血清アルブミン-サリチル酸複合体では適用可能であったNOEポンピング法は今回のサンプル系では分子間NOEの検出はできず、各種測定法もサンプル依存性が高いことが判明した。 また、NMR以外の手法として、最近開発されたコールドスプレーイオン化質量分析法(CSI-MS)を使用し、複合体およびタンパク質-結合水の直接観測を行った。本法は80-100kD程度の高分子物質にも応用可能であり、相互作用の直接的な検出方法であることより、薬剤スクリーニングのみならず、酵素とその阻害剤といった幅広い生体物質の相互作用観測にも適用できる。次年度は他のタンパク質および低分子-金属錯体の観測にも応用する。
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