研究概要 |
サイクリックフローインジェクション分析(cyc-FIA)は循環式のフローシステムで構築されているため、試薬の有効利用や廃液の減少といった利点がある。しかし、廃液中に分析目的化学種を含むため空試験値が側定回数の増大とともに上昇するという問題がある。この問題を解決するには酸化還元反応を利用する方法がある。そこで、本研究では新規のcyc-FIA(ゼロエミッション分析法ともいう)を確立するために酸化還元反応を利用する反応系の探索を行った。分析目的物は環境汚染物質を中心に検討したが、分析可能な化学種は鉄、銅、鉛、クロムなどであり、なかでも鉄イオンが最も高感度で定量可能であることが分かった。鉄イオンは数10ppbであっても工業製品の品質を低下させ、特に食品関係の品質に大きく影響する。そこで、鉄イオンを環境汚染物質の一種と考え、その分析条件を詳細に検討した。検出には化学発光検出器を使用した。反応メカニズムはFe(III)と過酸化水素が反応して生成するスーパーオキシドアニオンラジカルが1,10-フェナントロリンとジオキセタンを生成し、化学発光する。このときFe(III)は還元されFe(II)に変化するため、使用後の排液(検出試薬溶液)中に含まれても、次の分析反応には関与せず、妨害とはならない。その結果、一定のベースラインが得られ、100回の連続測定も十分可能であった。本反応系は鉄イオンの1回のみの酸化還元反応を利用することから、感度において十分ではない。そこで、感度不足を補うために、テフロンチューブ固相抽出濃縮法の導入を検討した。この方法は少量の溶離液で溶出が可能であり、捕集率は低いものの、結果として高い濃縮液を得ることができ、オンライン分析に適した濃縮法である。溶離液はエタノールを用いることにより、排液中にあっても妨害することは無かった。一方、溶離液に酸を用いた場合には分析回数が進むにつれ、pHが低下し、分析不能になった。結果として、50回の連続分析が可能となり、検出限界0.1ppb,定量可能範囲は0.3〜100ppbであった。共存する多くの金属イオンは妨害を示さなかったが、Cu(II),Zn(II)は正の妨害を示した。そこで、マスキング剤が検討され、Cu(III)はテトラエチレンペンタミン、Zn(II)は2,2'-ビピリジンを用いることで、それぞれ50ppbまで、マスキングできた。
|